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SHICORE Talk Vol.3:アロマセラピーの専門家、塩田清二教授に学ぶ『「香り」は「脳」に効く、「美と健康」に効く』

アロマセラピーの専門家、塩田清二教授と一緒に…。
アロマセラピーの専門家、塩田清二教授と一緒に…。
2012年8月に出版された塩田先生のご著書にサインしていただきました。

みなさんこんにちは、花田景子です。自分の中に「核」を持ち、より美しく健康なライフスタイルを探るための連載、『花田景子のシコアトーク』。
第3回目は、「香り」の成分は私たちの脳や体内にどのように吸収され作用しているのか、その不思議なメカニズムがテーマです。お話をしてくださるのは、メディカルアロマセラピー研究の第一人者、昭和大学医学部第一解剖学講座主任教授、塩田清二先生です。

花田先生は現在、アロマセラピーを活用した最先端医療に取り組んでいらっしゃいますが、研究されるきっかけというのはあったのでしょうか? 塩田

当初私は「ニューロサイエンス」という、脳神経を研究する学問で、食欲を調節する部分、「摂食中枢(せっしょくちゅうすう)」を調べていました。
我々動物は、なぜお腹が空くのか。逆に物を食べてお腹が満腹になったと感じるのは、どういうメカニズムなのか……。これらは脳の一番深いところにある視床下部(ししょうかぶ)というところで判断しているのですが、その判断を決定する外界からの刺激はいったい何なのか……ということを研究していたんです。例えば、お腹がすいた時に何か食べ物の匂いを嗅ぐと、それをとても食べたくなりますよね?

花田なりますねえ。 塩田

でしょ!? 特に美味しい料理の匂いとか……。例えば人は中華料理屋の前を通ると、換気扇から出てくる匂いを嗅いだだけで、急に空腹感を感じたりします。でもなぜ匂いによってお腹が空くのか、そのファクターは何なのか、そこを疑問に思ったわけなんです。 もともと視床下部には食欲を司るセンターがあるということは解っていました。お腹が空いたときに興奮するニューロン(神経細胞)と、満腹の時に興奮するものとの両方があるんです。それを摂食中枢、満腹中枢といいます。

人が匂いを感じるのは、気化した「匂い分子」と呼ばれるものが、鼻の嗅細胞(きゅうさいぼう)の嗅神経を刺激して電気信号(神経インパルス)を発生させます。その信号が、嗅球(きゅうきゅう)というところに伝わって、脳が「匂い」として感知するんです。つまり、匂いは脳、しかも脳の深いところにある視床下部や大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)に直接作用します。
それをどうやってイメージできるかということを色々考えていたときに、脳の機能を調べるツールとして「ファンクショナルMRI(磁気共鳴画像)」を使うことにしたんです。これは、脳内の血流量の増減をもとにその活動の状態を視覚化する装置です。動物でも人でも同じですが、生きた状態で脳の画像を見ることができるんです。

脳科学の専門家で、『味の素株式会社中央研究所』首席研究員の鳥居邦夫先生が、ネズミ専用のファンクショナルMRIで研究を行っていらしたのですが、そこで香りの実験をさせていただくことにしました。それが、今から6〜7年前でしょうか。現在の私の研究は、その頃からスタートしたと言えます。
生姜やティトリーオイルなど、様々な香りをネズミにかがせて実験を行ったのですが、匂いの種類によって、神経細胞の興奮する場所が違うということがわかってきました。おそらくこれは、これは人でも同じだろうと考えました。というのは、視床下部というのは、人でもネズミでも同じような構造をしているんです。

花田いつも思うのですが、ネズミと人が同じ反応をするというのが、なぜわかるのでしょうか? 違うかもしれないのでは? 塩田

確かに両者で違いはあります。ただ基本的な構造、例えば食欲とか、体温調節、血圧、循環器調節、生殖など、これらの場所はネズミでも人でもほとんど同じなんです。ところが、高次機能(記憶、学習、ムード、嗜好)などは、ネズミと人ではかなり違います。視床下部という場所はネズミでも人でも同じような神経があり、働きがあることが解ってきて、例えば人が生姜の香りでお腹が空きますが、ネズミも同じような反応を示します。摂食中枢が興奮するんです。

花田生姜には、そういう効果の香りの成分があると。 塩田

そうです。例えば、ペパーミントを嗅ぐと、人もネズミも覚醒します。覚醒中枢がペパーミントによって、刺激されるわけです。

花田面白いですね。 塩田

そういう匂いの脳科学をやっているうちに、段々とセラピーにはまってきまして……。MRIでの実験、研究を進めていくうちに、少なくとも空腹や睡眠覚醒などは、人もネズミも同じようなメカニズムであろうということが解ってきたわけです。

花田それは脳が刺激を受ける要素や、興奮する場所が解ってきた、と? 塩田

そうです。しかも刺激を受ける場所も、視床下部のこの部分ということがかなりピンポイントで解ってきました。

花田匂いというのは記憶に結びついていて、「この臭いを嗅ぐとあの時のあの場面を思い出す」とか、よく聞きますが……。 塩田

ありますね。それは香りの情報が脳に入ると、食欲とかだけでなく、記憶とか好き嫌いなどの、情操に関係するところにもその神経が伝達するということもMRIで解ったんです。
昔どこかに行って、レストランで美味しい料理を食べたとします。その時の香りの記憶というのは、脳の奥深くにある海馬(かいば)というところに入っています。海馬は人の記憶形成や空間学習能力に関わる脳の器官で、アルツハイマー病における最初の病変部位としても知られている場所です。

例えば、昔行ったレストランで嗅いだ同じ匂いが情報として入ってきたときに、視床下部だけでなく、海馬にも伝わり「以前同じ匂いを嗅ぎましたよね」という情報を思い出させるんです。それを最終的に「こういう香り、場面、ムード」など前頭葉で統合し「この匂いはあの場所で、こんな状況で嗅いだ」というふうに、詳細まで思いだすわけです。それで「ああ、この匂いはおいしいよね!」「そういえば、昔、貴乃花と一緒にこんなものを食べたな」などと、情景まで匂いで思い出すわけです。(笑)

花田そうですね。匂いについては、不思議だなと思うことが時々あります。以前韓国に行ったとき、空港に降り立ったら、キムチの臭いがすごいな~と思ったのです。ところが帰りに空港に行ったときには、同じ空港なのに全くその臭いを感じませんでした。そういう風に、鼻が慣れる……という状況は、よくありますよね? 塩田

そうですね。臭いというのは、同じものをずっと嗅ぎ続けていると段々感じなくなってくるんです。それは、臭いの分子と受容体(レセプター)との間の関係で、同じものがずっと過剰に続いていると、受容体の働きが鈍くなり、脳神経に情報を伝えなくなってくるんです。

花田ということは、いろんな効能があるアロマも、ときどき変えた方が良いということでしょうか? いつもそればかり嗅いでいると効果がないということでしょうか? 塩田

香りは嗅いだあとOFFにして、ある程度時間をおけば、その情報が脳の中で切れます。また何時間か後に嗅げば同じ神経細胞が活性化し、その効果が表れますから大丈夫です。

花田嗅覚を敏感に保つには、何かしらの刺激を与えた方が良いということはあるでしょうか? 例えば、いろんな臭いを嗅ぐことは、効果がありますか? 塩田

いろんなものを与えてあげると、受容体が活性化します。最近言われているのが、例えばアルツハイマーや、パーキンソン病といった「精神神経疾患」と嗅覚の深い関係です。「精神神経疾患」の患者さんは、記憶や学習障害が起きてきます。こういう人達は、記憶だけでなく臭いに対する感受性も落ちると言われています。
アルツハイマーになると、臭いが解らなくなるんです。センサーは生きている。嗅細胞はあるが、脳の受け取る側がおかしくなり、情報は入ってくるがそれを処理することができなくなるんです。

花田料理をしている時、風邪をひいて鼻が利かなくなっていると味覚も判らなくなる、という時がありますが……。それとは違うのですね? 塩田

風邪もひいていないのに、匂いが判らなくなるというのは、かなり痴呆が進んでいる可能性があります。主婦が認知症にかかると、料理をしていても匂いが判らなくなり、それに伴って味覚も低下し、おかしな料理を作るようになるんです。ですので、今まで作っていた料理と違うぞ、という時は注意したほうがいい。「料理の味の変化」は、一種の認知症の始まりの検出にもなってきたんです。
脳の機能が低下すると、様々な感覚受容や五感がおかしくなります。特に匂いの感覚がとてもおかしくなってしまう。美味しそうな匂いをかいでも美味しいとは感じなくなる。匂いについては気をつけなければいけませんね。。

花田そうですね。脳に近いだけに、嗅覚による刺激は、そのまま脳神経に直結しているのですね。感情などもそうですし。 塩田

ダイレクトに届きますね、好き嫌いも香りでコントロールされていますから。好きな異性、嫌いな異性も匂いでなんとなく識別しているところがあるんです。

花田まるで動物みたいですね。動物なんですけど。(笑) 塩田

動物です。(笑)ですから、年をとって加齢臭というのがありますが、それを嫌いだな〜と思うと、その臭いだけで嫌悪感をもってしまったりするんですね。だからヨーロッパなどでは香水とかを付けているんです。クレオパトラから始まって。あの人はバラの香りを付けていました。

花田バラのお風呂やバラの花などですか? 塩田

昔は「蒸留法」がなかったので、バラの花などをたくさん集めて、アルコールに漬けるわけです。アルコールは水とは異なり、有機成分が溶けます。そうすると花に含まれる香り成分が溶液に染み出すわけです。染み出したものを着けると香りが着くわけです。エジプト時代には、そういう方法を使っていたんですね。

花田紀元前から? 凄いですね! 塩田

ですから、アロマセラピーで歴史をたどっていくと、一番古いのはエジプト時代になります。

花田アロマセラピーというと、治療でも使いますね。 塩田

エジプト時代はミイラに使っていました。ツタンカーメンなどもそうですが、ミイラを作るとき、体を包帯で巻きますよね。その上に先ほどの方法で濃縮して作った植物の香油を、防腐剤としてベタベタと塗るわけです。香油を塗るのは殺菌効果、バクテリアを防ぐためです。昔の人はそういうこともやっていたんです。ミイラが何千年も腐らずに残っている理由にはこれらの効果が考えられます。しかもエジプトは水がなく乾燥しているので、天然の防腐剤が周りにあるのと同じです。

香油の利用は、何千年も前からエジプトでやっていたんです。すると、いい香りなのでミイラだけでなく自分にも付けよう……となる。クレオパトラもバラの香りを付けたり色々やったわけです。女性の魅力をアップさせて男性を惹きつけたんですね。これが香水の始まりです。

花田なるほど。日本でいえば「お香」がそうですよね。
以前「お香」を聞く体験をしたのですが、その際になんと奈良時代の香木を聞かせて頂いたんですが、それはそれは豊かでいい香りでした。気持ちが落ち着いたというか。
塩田

そうでしょう。リラクゼーションですね。「香道」の歴史は飛鳥時代頃からで、仏教伝来とともに日本に入ってきたと言われています。東南アジアの南、ジャワやインドネシア、タイやマレーシアなどで、木が樹液を出し固まって香木になる。それが日本にもやって来たのですね。これも一種のアロマなんです、植物ですから。実際、香木になるまでにはとても時間がかかるそうです。2千年とか。

花田そんなにかかるんですか!? 塩田

木が樹液を出して固まるわけですから、物凄く時間がかかっています。そんなに簡単には固まらないという話です。香木がなぜ貴重なのかと言いますと、それだけ時間がかかっているからなんですね。

花田だから、今でも強く香るんですね。 塩田

そうですね。あれは木が死ぬ前に自分の生き残りをかけて樹液を出す。そういう結晶なんですね、結局は。

花田凄い神秘ですね。
花田塩田先生は現在、シークヮーサーに着目、研究されていますね。シークヮーサーはビタミンCを始め様々な成分があり、それがレモンや他の柑橘類の何倍もあるそうですが、アロマとしての効果も高い……と。それはどういうところから解ったのですか? 塩田

私はアロマの研究をやっていましたが、最初からシークヮーサーを扱ってみようと思ったわけではありません。昨年の初め頃、『沖縄特産販売』の藤井さんから「シークヮーサーには様々な成分があるので、調べて貰えますか? また精油も作ってみて貰えますか?」と相談があったのがきっかけです。そこで、我々が持っている技術で、シークヮーサージュースとエッセンシャルオイルを研究してみる事にしました。国の六次産業の生産活性化事業、農林水産省のプラントで。これは公的資金です。

まず、シークヮーサーを使って精油を作ることにしました。ちょうどその頃、私たちの研究室で、低温状態の真空で抽出する技術が開発されていました。それまでの抽出では水蒸気を利用していたんです。95度くらいのお湯を植物にかけて、そこから水と油に分けていくのですが、この方法だと、熱で成分が壊れてしまうのです。そこで私たちは45度くらいの低温で、真空状態で抽出しよう(=低温真空抽出法)、となったわけです。
この低温真空装置ですがFECの福元社長が特許技術をお持ちで、相生に本社があります。そこで精油の製造を行いました。

真空状態で、周りを冷却しながら撹拌すると、とても上質なオイルが採れることが判りました。『沖縄特産販売』からシークヮーサーを40kgくらい送ってもらい、我々が開発したこの方法で抽出を行ったんです。実はこの「低温真空抽出法」を使うとシークヮーサーに限らず、他の精油でも従来の蒸留法に比べ、抽出される精油の成分量がなんと数字が二桁、100倍以上違うんです。それほどこの抽出法が優れていることが解ります。
シークヮーサーを皮ごと絞ると、中のエキスが出てきて、外側の果皮が残ります。残った果皮から精油を抽出します。それを調べると、果皮の中に含まれる成分(ノビレチンなど)があり、それがアンチエイジングにいいんですね。ジュースもまた同様にアンチエイジングにいいことが解りました。

花田ノビレチンがアンチエイジングにいい、と!? 塩田

ノビレチンは主成分ですが、シークヮーサーにはこれだけではなく、アンチエイジングに効果のある成分が非常にたくさん含まれていいて、それがトータルでアンチエイジングに効果があるんじゃないか、ということが解って来たわけです。 ノビレチンだけ取り出して試してもそれほどの効果がない。シークヮーサーに含まれる様々な成分が複合して効果を出しているんでしょう。治験者15人に、シークヮーサーを毎日50mlを3週間続けて摂取してもらい、シークヮーサーのもたらす効果について調べました。その結果、以下のことがわかりました。これは、エッセンシャルでもジュースを飲んでも、効果は同じです。

 (1)バップ=酸化ストレスを抑える効果、抗酸化度が上がる
 (2)ストレスホルモンと言われるコルチゾールの低下、抑制効果がある。
 つまりリラクゼーションがおきているということ。

花田女性はこれを聞いただけで、飛びつきますね。次回は、シークヮーサーの効能やアロマセラピーの効果について、さらに詳しく教えてください。

(次号に続く)

塩田清二(しおだ せいじ)氏 プロフィール
昭和大学医学部第一解剖学講座主任教授。1974年に早稲田大学教育学部生物学研究科卒業後、新潟大学理学研究科修士課程修了、昭和大学第一解剖学講座にて医学博士号取得。日本アロマセラピー学会理事長、日本統合医療学会副理事長などを務める。専門は神経ペプチドを中心とした神経科学。

  2012年8月、著書『<香り>はなぜ脳に効くのか』を発行。好評発売中。 ¥740(税別)NHK出版刊

SHICORE Food Vol.1:沖縄特産シークヮーサーを使ったオリジナル・シコアレシピ『れんこん団子の甘酢からめ』

料理写真【材料】・れんこん … 200g
・とりひき肉 … 150g
・しょうが … 1かけ(すりおろす)
・片栗粉 … 大さじ2
・揚げ油
<甘酢 材料>
・しょうゆ … 大さじ3
・砂糖 … 大さじ3
・黒酢 … 大さじ1
・シークヮーサー果汁 … 小さじ1.5
・片栗粉 … 小さじ2
・水 … 50cc
材料
【作り方】
  1. れんこん50gは粗くみじん切りにし、残りはすりおろし、汁気を少し絞る。

  2. 1. ととりひき肉・すりおろしたしょうが・片栗粉をよく混ぜる。

  3. 団子状にして、油で揚げる。

  4. 鍋に甘酢の材料を煮立て、れんこん団子を入れからめる。

SHICORE Food Vol.3:沖縄特産シークヮーサーを使ったオリジナル・シコアレシピ『豆腐のババロア(シークヮーサーゼリーのせ)』

料理写真【材料】 【ババロアの材料】
・絹ごし豆腐 … 半丁
・ヨーグルト … 250g
・生クリーム … 100cc
・砂糖 … 50g
・ゼラチン … 2袋(ふやかす水は分量外)
・水 … 80cc
・洋酒(ラム酒など) … 適宜
・シークヮーサー果汁 … 大さじ1

【ゼリーの材料】
材料・ゼラチン … 1袋(ふやかす水は分量外)
・水 … 150cc
・シークヮーサー果汁 … 大さじ2.5
・砂糖 … 大さじ1.5

<かざり用>
・グレープフルーツ(ルビー・ホワイト) … 適宜
・マリネ液
(ミントの葉 … 適宜・はちみつ … 大さじ1・シークヮーサー果汁 … 大さじ1)

【作り方】 【ババロアの作り方】
  1. 豆腐とヨーグルトをよく混ぜる。

  2. ゼラチンは水にしとらせる。

  3. 水の中に砂糖を入れ、火にかけとかす。火を止め、ゼラチンを入れ、混ぜながらとかす。

  4. 1. の中に人肌に冷めた3.を少しずつ入れ、よく混ぜる。

  5. 生クリームを4.と同じかたさに泡立て、4.に混ぜる。

  6. シークヮーサー果汁を5.に混ぜ、好みでラム酒を加える。

  7. 器に入れ、冷蔵庫でかためる。


【ゼリーの作り方】
  1. ゼラチンは水でふやかす。

  2. 水と砂糖を火にかけ温め、シークヮーサー果汁を入れ、ゼラチンをとかす。

  3. 器に入れ、冷蔵庫で冷やしかためる。

  4. 細かくきざむ。


☆ グレープフルーツは房から取り出して、はちみつとシークヮーサー果汁とミントの葉でマリネしておく。

【仕上げ】
 ババロアの上に細かくしたゼリーをのせ、マリネしたグレープフルーツとミントの葉を飾る。

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